坂本社労士のブログ

強制わいせつ致傷で有罪判決の元従業員に退職金支払い命令   ( 2012.09.23 )

〈事案の概要〉
被告会社の従業員は入社以来20 年以上にわたって被告会社に勤務してきたが、当時16歳の女子高生がのった自転車を無理やり止め、背後から口を押さえ声を出せないようにして胸に触り、その後被害者を突き飛ばしてけがをさせた。この事件は被告会社の社名とともに報じられた新聞等もあった。会社は本人の辞表を受け取り、自主退職としたが、その後、退職金の請求に対しては懲戒解雇相当であるとして支払を拒んだ。
これに対して元従業員が会社に退職金の支払いを求めて提訴したのが本件である。


〈判旨〉
「被告における退職手当は賃金後払いとしての性格を有している一方で」退職金が不支給とされることがあると退職金規定に定められていることから「功労報償としての性質も併有する。そして、被告における退職手当が両者の性格を併有していることからすると、本件不支給規定によって、退職金を付支給ないし制限することができるのは、労働者のそれまでの勤続の功労を抹消ないし減殺してしまうほどの信義に反する行為が逢ったことを要する者と解される」とした。そのうえで、本件での原告の犯罪行為によって会社の名前が報じられ、会社がその対応をしなければならなかったことをみとめつつも、それまで前科前歴がないこと、被害者と示談が成立していること、等を考慮し、退職金の55%の減額にとどめ、残額の支給を命じた。


〈解説〉
本件では単に犯罪行為に及んだだけではなく、その報道で社名が報じられたという点が会社にとってはダメージを与えるものであり、懲戒解雇相当であるとの判断をした。この判断はよくありそうであるが、本件では、懲戒解雇や諭旨解雇ではなく、合意退職の形で従業員を退職させていた点に特徴がある。
いろいろな会社の就業規則では、退職金を支給する場合でも、非違行為の程度により退職金を支給しないケースを定めることが多い。
この規定そのものは有効であるが、問題は退職金が賃金後払い的性格をもつとされていることから、それまでの就業期間に応じた賃金である退職金を支払うか否かという点にある。
本件では20 年以上にわたり被告会社に勤務しており、その間の成績もよく、本件犯罪行為までは特に問題がなかったこと、刑事裁判では有罪となったが保護観察付であるが執行猶予がついたこと、被害者との示談が完了していること、を裁判所は考慮したため、それまでの会社での功労を完全に無にするとまでは評価すべきではない、とした。
本件のような場合、懲戒解雇の可能性があるのであれば辞表の受領を留保して刑事裁判の進行を見てそれから受理するか否かを決めるというほうがよかったのではないか、と思われる。

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